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固定残業代制の話をしよう 導入時に押さえておくべき3点

今回は行政書士の安達さんと「固定残業代」について話をしました。ポッドキャストでも配信していますので、音声版を聴きたい方はこちら(Spotify / Apple)から聴けます。

固定残業代制とはどういう制度なのか

金山 「固定残業代」制 や「みなし残業代」制、あとは「定額残業代」制など、どういう制度なのか、なんとなくわかりますか?

安達 そうですね、あらかじめ残業は何時間って決めて、その分のお給料を、もうあらかじめ出す。それを超えたらまた出してくれるっていう。

金山 そうですね、今言ったのが全てなんですが、要するに固定残業代制は、たとえば20時間であれば20時間分の残業代はあらかじめ支払いますよ、と決めておいて、実際の残業が20時間に満たなかったとしても、その分は毎月支払われるものです。

で、20時間を超えて残業した場合、たとえば23時間残業したら、3時間分はさらに支払う、というような制度になっています。

安達 はい。

金山 そして、まずそもそも固定残業代制っていったときに、今、20時間と決めてっていうのを前提にして話したじゃないですか。

ただ、そうではなくて、固定残業代として月いくらかを決めて支払えば、無限に残業させることができるという形で誤解されてる方も多いんです。なので今、時間の話をしました。

押さえておくべき3要件とは?

金山 導入するときに、適切に運用されているかを見る3要件があります。

1つ目が、基本給と、さっきの話で言うと20時間分の固定残業代制にあたる部分が、明確に区分されていること。だから、たとえばトータルで25万だとして、うち20万は基本給、5万円が(適当に言ったので金額の計算は合わないかもしれないんですけど、)20時間分の固定残業代=割増賃金にあたる部分、っていう形で明確に区分されている必要があります。

だから、全部で25万円払いますね、そのうち残業代の部分は何円か、何時間の残業にあたるかどうかは分かりません、みたいなことだと、制度として要件を満たしていないことになります。

判例だと、「判別できる」っていう言い方をします。これ、そういえば社労士試験でも穴埋めで判別って言葉が抜かれていたくらい重要なキーワードです。ここで逆に判別できないとはどういうことかっていうと、医師が年棒1700万円をもらっていたんだけれども、そのうちのいくらが時間外にあたるかが判別できなかったというケースで、固定残業代制として残業代を支払っているとは認められなかった、っていうような判例がありました。

(参考)医療法人康心会事件(最2小判平成29年7月7日)

ちなみにここからちょっと派生すると、今の区別できない場合っていうのを「組込型」とかって言います。組み込まれている、っていう。

安達 はい。

金山 ただし、組み込まれているとはいっても区別できないから、結局は成立してなかったんですが、この事例の場合は。一方で対比されるのが、「手当型」。「固定残業手当」みたいな形で明記されていると、区別できますよね。

加えて、明確に区別されていたとしても、それが残業代であることが明確である必要もあります。業務手当、という名称で固定残業代を支払っていた場合に、それが残業代を支払ったものとして認められたかっていう争いもありました。結局は、実質的に労働者との間で、これは残業代として支払っているっていうのがわかっているかどうか、のところで判断されます。名称が違うからどう、っていうことではないんですが・・・ただ、わかりにくいですし、「何時間分の残業代」として払うのであれば「固定残業手当」とか、そういう形にした方がいいんじゃないかと。

安達 たしかに、わかりにくいですね。

金山 わかりやすくした方がいいですよね。業務手当っていわれても何のことかわからないですからね。長くなりましたが、それが1つ目明確区分性とか言ったりします。

で、3つのうち2つ目が、計算可能性とそれから金額の適切性。計算可能性というのは何かっていうと、何時間分であるかっていう根拠を示すことによって、計算ができますねと。計算っていうのはつまり、法定の時間外手当として支払う場合は、2割5分の割増が必要になるんですが、通常時間内で働いている給料、基本給を、一時間あたりを1とすると、時間外として一日8時間、週40時間超えた部分については、1.25掛けて計算しなきゃいけません。だから、たとえば時給が1,250円であれば、1.25掛けて1,562円。それが20時間分であれば、1,562円に20時間をかけると割増賃金額が出てきますよね。

20時間分の固定残業代として支給されているものが、この金額を下回っているとなると、割増賃金としての要件を満たしていないということになるのでだめですと。なので、そもそも計算根拠を示しておくことと、その前提としてしっかり適切な金額である、金額の適切性っていうところですね。これが2つ目と。

3つ目がこの金額の適切さに関わってくるところなんですけど、安達さんがさっき言ったように、20時間を超えたら別途支払いが必要なんです、と。固定残業時間は20時間と決めておいて、実際にはその月は50時間の時間外労働があったとなったら、超えた30時間分の時間外労働は別途計算して、さっきの1.25倍で計算した30時間分を支払う必要があるよ、ということですね。

この3つがしっかりと運用されていないと、固定残業代として要件を満たさない。

固定残業代の要件を満たさなかったら?

金山 ここでたとえば、会社の側が、固定残業代のつもりで、たとえば月5万円を毎月支払っていたとするじゃないですか。

安達 はい。

金山 それが固定残業代として認められるならば支払い済みなので、追加での支払いは必要ない。ただ、たとえば、辞めた労働者の方から「毎月20時間残業してました、だけど残業代は支払われていません」って訴えられたときに、会社が支払ったと思っていた5万円が、固定残業代として適切に運用されていなかったために認められなかったとしたら、その5万円とはまた別に、20時間分の残業代を支払わなきゃいけなくなる、と。

で、2年間とか・・今は2年間なんですけど、この4月からは(当分の間)3年間分に未払残業代の時効が延びるので、そうすると、労働者一人であっても、対象期間が長いと結構な金額・・・数百万とかにはなってくるので、適切に運用しないと、結構怖いですよと。

雇用契約書に固定残業代のポイントを明記する

安達 契約を結ぶ時に、この金額は残業代ですよと、双方理解して契約しないといけないですね。

金山 そうですね。だから、雇用契約書に「固定残業手当として」という名目で書いておく。さらにそれが何時間分なのかっていうのも書いておく。で、何時間分で何万円です、という金額まで明記しておく、この3点を書いておくのがベストです。

適切な固定残業時間は?

金山 あと、今20時間とか30時間とかで話してましたけど、その固定残業時間を何時間に設定するかという問題もあるじゃないですか。これももう本当に色々なんですけど。たとえば、月45時間って時間外労働の上限として、月45時間・・今までは基準だから、法的な拘束力はなかったんだけど、大企業は去年の4月から、中小企業は今年の4月から、時間外労働に上限規制ができました、と。これが法律になったんです。今まで基準だったものが、法律に。そうすると、罰則の適用もあるし、法的拘束力もあると。で、それが原則月45時間、年360時間なんですよ。だから、これを実質超える、たとえば固定残業代月100時間とか・・100時間だったらもう絶対、安全配慮義務とかそういうものが関わってきますからだめなんですが。

月45時間までが今までは常識的なラインと言われたりしていたんですけど、でも今、月45時間、年360時間っていったじゃないですか。月45時間で12ヶ月いくと、年360時間を超えるんですよ。

安達 全然超えますね。

金山 そう。だから、せめて年360時間守るとしたら12で割ると、月30時間じゃないですか。だから、もう実質、実務的な運用としては月30時間までじゃないと、そもそも常に上限に達してる、みたいなことになっちゃうんで。実際上の運用としては20時間とか、30時間とかっていうのが妥当なラインかなと思います。

それに、そもそもあまり長い時間を定めておくっていうことは、その残業代があるものと想定してるっていうことになるじゃないですか。それは、労働者の時間管理の観点から、望ましくないですよね。だからあまり長い時間を固定時間として定めておくのは、そもそもよろしくないと。

安達 40時間とかたまに見ますけどね。残業代40時間分含む、みたいな。

金山 ありますね。40時間だと、今回の時間外労働の、働き方改革で改正された上限規制を超えちゃいますよね。年480時間になっちゃう。

安達 そう書いてあると、40時間残業するのかなってちょっと思いますよね。

金山 ただ一応、40時間残業させる義務があるわけじゃないし、みなすっていうだけなので、あくまでも。

固定残業代制のメリットって?

金山 この固定残業代制ってそもそもどういう意味があるのかっていうところから、結構疑問視されていたりする部分もあって。そもそもの建前は、たとえば週20時間あらかじめ決めておくと、払いすぎるじゃないですか。時間外労働が0時間だったら、20時間分は余計に払うことになる、そういう建前で。たとえば、20時間を超えない部分の給与計算が楽だとか。あとは、20時間分を減らしたら減らした分だけ、労働者にとっては1時間あたりのお給料が上がるので、時間外労働を減らすインセンティブが働くとか。

とはいえ、原則として、会社の側に純粋なメリットは少ない制度っていうことを、スタートラインとして考えるべきだと思います。

あとは、求人の時に全体の金額が傘増しされて、金額のボリュームがあるように見えるとか・・・

安達 そうですね、基本給はちょっと安めに設定してあって、残業代込みみたいな。

勤怠管理が前提の制度

金山 そうですね。固定残業時間を超えた部分については、別途計算して支払わなきゃいけないじゃないですか。だから、適切な勤怠管理、時間外労働の管理をした上での制度運用が必要です。そもそも何時から何時まで働いたのかが管理できていないのであれば、この制度の前提自体が崩壊します。だから、実際にしっかり運用しようとすると結構難しい。今後ルール運用が厳しくなっていくと、徐々に減っていくかもしれないな、とも思います。

これを支払ってさえいれば何時間働かせてもいいし、他に残業代払わなくていい、みたいな形で使われちゃっている場面もあるのですが、実際にはそういう趣旨のものではありません。

固定残業代制は求人票にも明記が必要

金山 応募する側からして、固定残業代って書いてあったら、どういう印象を受けますか?

安達 私の場合は、「給料これくらいなんだ。」と見て、ただ、残業代何時間込みって書いてあったら、「あ、なんかちょっと盛られてるな」ってイメージが少しはある。しかもその時間数も20時間なのか40時間なのかで・・・40時間は結構厳しいなっていうイメージですね。20時間くらいだと、まぁ1日2時間ぐらい?平均すると。

金山 1日1時間とか?月20日として・・・

安達 そうか、1日1時間とかだったらまぁ、全然有り得るかなぁとは思うんですけど・・そうですね。

金山 注意しなきゃいけないのが、実際に生じる時間外労働と、ここで明記されている時間外の固定時間っていうのはあくまでも別で、20時間って書いてあるからといって、毎月20時間時間外労働しなければいけないというわけではない、ということですね。

そのあたり、結構誤解が大きかったりすると思うので。あとさっき、盛られてるっていってたけど、求人の際に、固定残業代制を採用している場合は、その旨を明記する義務があります。募集の際に、たとえば月40万円です、とだけ示して、実際に契約をする段階になって、「実はこれ、固定残業代100時間含んでます」っていうのはだめなんですよ。

(参考)厚生労働省パンフレット

会社の側も働く側も、さっきの3要件、明確に区分されていること、割増賃金の時間単価が計算できて金額が適切であること、固定残業時間を超えた分は別途支払われること。この3要件が満たされているかっていうのは、どちらも知っておくべきことだろうな、と思います。

安達 そうですね。

金山 という感じで今回は以上です。

安達 ありがとうございました。

金山 ありがとうございました。

(転載元:固定残業代制の話をしよう|かなやま / yorube|note

記事監修

【監修者】社会保険労務士 金山杏佑子

classwork編集長。社会保険労務士事務所ヨルベ代表。スタートアップの労務管理に注力。