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「雇用とは、業務委託とは」シリーズ② 働き方改革との深い関係

「雇用とは、業務委託とは」シリーズの2回目では、働き方改革との関連を考えていきます。

働き方改革は政府の重要政策であるだけでなく、働く人を幸せにする「はずの」取り組みです。

そして、雇用と業務委託も、働く人の働き方に大きな影響を与えます。

そのため、働き方改革と、雇用と業務委託は深い関係にあり、この記事ではその点を掘り下げていきます。

雇用と業務委託の違いについては、以下の記事を参考にしてください。

政府の働き方改革とは

まずは、政府が推し進めている働き方改革の概要を確認しておきます。

政府はなぜ、働き方改革を始めたのか

政府が働き方改革に乗り出したのは、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が深刻化したからです(*1)。育児や介護で仕事ができなくなった人にも働いてもらわないと、日本経済を支えられなくなります。

労働力を増やすには、働く意欲のある人が、どのような事情を抱えていても働ける労働環境や職場環境や労働条件が必要になります。

働き方改革とは、労働環境や職場環境や労働条件を調整して、働き手が働きやすくする取り組みです。

ただ働き方改革は、労働者に寄り添うだけではありません。政府は経済界からの要望も、働き方改革に盛り込もうとしています(*2)。

経済界はかねてより、裁量労働制の拡大を求めていました。裁量労働制とは、労働者自身が仕事の仕方や労働時間を決めることができるルールで、働き方改革のメニューの1つです(*3、4)。

裁量労働制と生産性

一般的な労働制は、つまり、労働者の普通の働き方は、労働時間が決まっていて、その時間に会社にいて仕事をすれば、賃金をもらうことができます。労働時間を超えて働けば、時間外手当をもらうこともできます。

一方、裁量労働制は、労使で(労働者と会社で)、業務内容と賃金だけを決めます。そして、その業務を遂行する方法も業務時間も、労働者が自分で決めることができます。

裁量労働制は、労働者の裁量が広がるので、労働者の自由度が拡大します。それで、労働者に優しい仕組みのように見えますが、そうではない一面もあります。

裁量労働制では、仕事のスキルが低い人や作業が遅い人は、どれだけ長時間働いても、同じ額の賃金しか得ることができません。

つまり、裁量労働制が普通の働き方になってしまったら、労働者は長時間労働を強いられるかもしれません。

その分、企業は支払う賃金を抑制できるわけです。

経済界が裁量労働制を重視するのは、日本企業の生産性が低いからです。

日本の1時間当たりの労働生産性は46.8ドルで、OECD加盟国36カ国中21位という低位に沈んでいます(*5)。

生産性を上げることも、政府の働き方改革の目標に含まれています(*1)。

生産性が上がると、企業は少ない労働力で同じ成果を得ることができます。労働者も、短い労働時間で同じパフォーマンスを発揮することができるようになるので、恩恵を受けることができます。

したがって、裁量労働制の強化によって生産性が向上することは歓迎できることですが、その際、裁量労働制の弊害をどれだけ減らすことができるかが課題になるでしょう。

このように働き方改革とは、労働者にとっても、企業にとっても「よい道」を探る取り組みといえます。

「労働関係の法律の改正」こそ働き方改革の具体的な形

働き方を決めるのは、使用者である会社や経営者と労働者です。

では政府は、どのように働き方に介入するのでしょうか。

政府は法律を改正して、理想の働き方を実現しようとしています。

政府の働き方改革とは、労働基準法、労働基準法施行規則、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律などを改正したりつくったりすることです。

使用者は、このような労働関係法を守って労働者を雇用することになるので、政府が想定する「働かせ方」「働き方」になっていく、という流れになります。

法律の改正などによって、次のことが決まりました。これらが、働き方改革の「具体的な内容」ということができます(*6)。

<2019年4月から義務化(一部は2020年4月から)>

・時間外労働の上限規制:初めて罰則つきの労働時間規制を導入する

・年次有給休暇の確実な取得の実現:年10日以上の年次有給休暇を与える労働者には、そのうちの5日間を使用者が時季を指定して取得させなければならない

<2023年4月から義務化>

・月60時間超の時間外労働に対する割増:中小企業の割増賃金率を引き上げ、大企業も中小企業も50%となる

<2019年4月から、各企業で選択できるようになる>

・フレックスタイム制の拡充:労働者が自身の労働時間を調整できる期間を延長し、より柔軟な働き方に

・高度プロフェッショナル制度:1)高度の専門知識を有する、2)職務の範囲が明確、3)年収が一定額以上――といった条件をクリアした労働者に、労働時間や休日や割増賃金に関する規定を適用しない

働き方改革が実現すると雇用と業務委託の垣根が低くなる?

働き方改革を概観できたところで、雇用と業務委託の2つの働き方に、どのような変化が起きるのか考えていきます。

結論を先に紹介すると、雇用と業務委託の垣根が低くなるかもしれません。

雇用とは、業務委託とは

雇用とは、企業が労働者を雇用したうえで仕事をしてもらい、賃金を支払う形態です。

業務委託とは、企業が個人事業主に仕事を依頼して、報酬を支払う形態です。

業務委託には「雇用」という手続きがありません。また、業務委託では、企業は働き手に指揮命令しません。

業務委託の形で働く個人事業主は、雇用されないため、自由度が高い働き方ができます。また、雇用されると賃金の額が定まってしまいますが、業務委託では、報酬は企業と個人事業主が相談して決めることができます。

このように説明すると、働き手にとって業務委託のほうがメリットが多そうな印象を受けるかもしれません。しかし雇用には企業が労働者を守る機能がありますが、業務委託には雇用の手続きがないので、働いている人はその恩恵を受けられません。

「雇用」に不満を持つ経営者のジレンマ

企業や経済界には、従来型の雇用形態に対する根強い不満があります。2019年に経団連会長が「終身雇用は限界」と発言して注目を集めました。これに同調するように、日本自動車工業会会長も「終身雇用を守っていくのは難しい」と発言しています(*7)。

終身雇用とは、企業が一度労働者を雇用したら、責任を持って雇用し続けなければならないルールです。企業の解雇権を制限しています。

先ほど、雇用には、企業が労働者を守る機能がある、と紹介しましたが、終身雇用と解雇権の制限は、労働者を最も強く守っているといえます。

経営者は、企業の存続と利益の拡大を目指しているので、どうしてもパフォーマンスが高い労働者に高い賃金を与えて、意欲が低下した労働者を退場させたいと考えます。しかし、現在の労働関係法は、それを許しません。

業務委託には、終身雇用も解雇権の制限もありません。

では、企業が完全に雇用をやめて、すべての仕事を業務委託に切り替えればよいのかというと、それも難しいでしょう。

雇用することによって、労働者に愛社精神や「この会社のために働こう」という気持ちが生まれ、それが企業を強くしています。企業は雇用からも多大の恩恵を受けているので、雇用を捨て去ることはできません。

総務省によると、従業者数(≒働く人=労働者+個人事業主)5,349万人のうち、個人企業(≒個人事業主)は634万人で11.9%に過ぎません(*8)。

つまり88.1%は、企業と雇用契約を結んでいる労働者です。

日本企業は、雇用によって支えられているといえます。

現状の雇用制度によって、企業や経営者は常にジレンマを抱えていることになります。

それで経済界は、働き方改革に期待するわけです。

雇用関係によらない働き方の模索

企業・経営者が抱えるジレンマを解消する一助になるかもしれないのが、経済産業省が設置している「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会」です(*9、10、11)。同研究会は2016年から2017年までに4回開催されています。

もし、企業が労働者と雇用関係を結ばずに、今以上の成果をあげることができれば、ジレンマは解消されます。

同研究会では、個人事業主(フリーランス)の活用を提案しています(*11)。フリーランスを活用している企業は2割にすぎず、半数近くの企業はフリーランスの活用の検討すらしていません。フリーランスを活用する余地は、まだまだあるわけです。

フリーランスの活用拡大は、業務委託を拡大することと同義です。同研究会は、業務委託の拡大には、次のようなメリットとデメリットがあるとしています。

<フリーランスを積極的に活用して業務委託を拡大するメリット>

・高い専門性を有した人材を確保できる

・必要な人材を必要な期間だけ活用できる

・雇用者(雇用契約による労働者)より、人件費などがかからない

・成果物の品質が高まることが期待できる

<フリーランスを積極的に活用して業務委託を拡大するデメリット>

・事業の継続が難しくなるかもしれない

・専門性が高いので人材の代替がきかない

・情報漏洩のリスクが高まる

・労働者を雇用するよりコミュニケーション・コストがかかる

・自社の人材を成長させる機会が失われる

厚生労働省が働き方改革の旗振り役になっている一方で、経済産業省は経営者のジレンマを解消する道を模索している、とみることもできます。

それぞれの省庁が「日本の生産性」を高めるために、雇用や業務委託や働かせ方や働き方を深く検討していることがわかります。

まとめ~対応力が求められる時代に

大卒者の就職率は大体8割です(*12)。就職とは、積極的に労働者になることなので、日本人の若者のほとんどは雇用関係を望んでいると考えてもよいでしょう。

つまり、フリーランス(個人事業主)になって企業から業務委託を受けようとする若者は少ない、ということができます。

しかし経済界は、雇用することを重荷に感じています。雇用のなかでも特に、終身雇用と解雇権の制限は「やっかい」な仕組みであると感じています。

働き方改革の背景には、こうした労働環境や雇用環境などがあります。

雇用と業務委託の姿が変わることに、経営者も労働者も対応していかなければならないでしょう。

*1:「働き方改革」の実現に向けて |厚生労働省

*2:裁量労働拡大や労働時間規制の撤廃を経済界が望む理由(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

*3:専門業務型裁量労働制の適正な導入のため - 東京労働局 労働基準監督署

*4:裁量労働制の概要 |厚生労働省

*5:労働生産性の国際比較 | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人日本生産性本部

*6:働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)

*7:財界の「終身雇用はもう限界」発言、やっぱり無責任じゃないですか?(西田 亮介) | 現代ビジネス | 講談社

*8:統計局ホームページ/統計Today No.82

*9:経済産業(METI/経済産業省)

*10:「雇用関係によらない働き方」に関する研究会(第3回)‐配布資料(METI/経済産業省)

*11:「雇用関係によらない働き方」をめぐる企業の取組みについて - 経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室

*12:大卒「就職率」は 77.1%で 8 年連続アップ! - 旺文社 教育情報センター

○「雇用とは、業務委託とは」シリーズ

この記事を担当したライター

classwork編集部

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