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「雇用とは、業務委託とは」シリーズ③ 起業家が注意すべきこと

「雇用とは、業務委託とは」シリーズの3回目は、「働き方と働かせ方」に関する最近の話題について考察していきます。

企業などに雇用されて働く人を「労働者」といいます。使用者(企業や社長)は、労働者が決められた時間を働いたら、決められた賃金を支払わなければならず、残業をすれば割増賃金を支払わなければなりません。

一方、業務委託で仕事を発注している個人事業主には、事前に決めた報酬を支払えばよく、個人事業主がどれだけ長時間働いても、使用者は割増賃金を支払う必要はありません。

そのため悪意ある企業は、実態は雇用状態にあるのに、業務委託の形を取って残業代の支払いを免れようとします。

起業するには、働いてくれる人を見つけなければなりません。そのとき、雇用の形で働いてもらうのか、業務委託の形で働いてもらうかは、起業家が決めます。

この記事では、「雇用か業務委託か」の選択が、コンプライアンスに関わる重大事であることを、具体的な事例を紹介しながら解説していきます。

個人事業主が雇用化を求めた「ヤマハ英語講師」問題

個人事業主として働いている人たちが、業務委託契約を結んでいる企業に対して、自分たちを「雇用してほしい」「雇用すべきだ」と訴えることがあります。

株式会社ヤマハミュージックジャパン(本社・東京都港区、以下、ヤマハ)は、楽器の販売以外に、英語教室を運営しています(*1)。

この英語教室で、個人事業主として働いている講師たちが2019年1月、「委任契約」を結んでいるヤマハに対して直接雇用をして社会保険を適用するように求めました(*2)

委任とは、業務委託の一種で、業務を遂行すれば報酬を受け取ることができる業務形態です。

雇用には人材コストがかかる

英語講師14人は労働組合をつくり、ヤマハに対し次のように訴えました。

1)契約上は業務委託契約を結ぶ個人事業主だが、実態はヤマハ側の指示で働く労働者とほぼ同じである

2)直接、雇用することを求める

3)社会保険の適用を求める

業務委託と雇用の大きな違いは、会社側からの指示や指揮命令があるかどうかです。

雇用契約で働く労働者は、会社や社長から、指示や指揮命令を受けて仕事をします。

業務委託で働く個人事業主は、会社や社長から、指示や指揮命令を受けません。個人事業主は仕事を完成すればよく、会社側からの指示に従う必要はありません。

もし、会社・社長が、働き手に指示を出して、その通りに働かせたかったら、その働き手を雇用しなければなりません。

そして、雇用するときに正社員にするのであれば、社会保険を適用しなければなりません。会社は、社会保険の保険料を負担することになり、人材コストが発生します。

ヤマハ側は「講師の方々と丁寧に話し合いを進める」としています(*2)。また英語講師の労組も「雇用化を導入する方向で(ヤマハ側との話し合いが)進んでいる」と述べています(*3)。

起業家はこの問題から何を学ぶべきか

ヤマハ英語講師問題から、起業家が学べることは「自社の都合だけで人材を集めてはならない」ということでしょう。

雇用か業務委託かの選択は、経営に関わる重要な人事戦略といえます。

設立したばかりの会社の場合、人件費を節約しなければならず、雇用する社員を最小限にしたいと考えるかもしれません。

そして、社員が最小限しかいないと、こなせない仕事が出てきます。その仕事を個人事業主に、業務委託契約を結んで任せることは、正しい経営戦略といえます。

ところが社長が有能な個人事業主と出会うことができ、継続して仕事を任せたくなると、別の検討が必要になります。

ヤマハ英語講師問題は、実態は雇用しているのと同じなのに、業務委託を継続して人材コストを節約することは許されない、ということを教えています。

個人事業主が、他の社員たちと同じように会社に毎日定時に出勤していたり、社長たちが個人事業主の仕事に細かく指示を出したり、報酬からすると拘束時間が長すぎたりすると、「実態として雇用とどこが違うのか」と思われます。

このとき、この個人事業主が「雇用してほしい」と求めた場合、社長は真剣に対応しなければなりません。

引き続きこの個人事業主に同じ条件で働いてもらいたければ、雇用への移行を検討したほうがよいかもしれません。

企業の体力的に雇用する余裕がなければ、この個人事業主への発注方法を変えなければなりません。勤務時間や報酬を見直したり、指示出しを控えたりすることで、「問題のない業務委託」にすることができます。

ウーバーイーツでも似た問題が起きている

飲食宅配代行サービス「ウーバーイーツ」を運営しているウーバージャパン株式会社(本社・渋谷区)でも、「雇用か業務委託か」問題が起きています(*4、5、6)。

「事故に遭ったときの補償が十分でない」と主張

ウーバーイーツの配達員たちも個人事業主であり、雇用された労働者ではありません。労働者でない以上、労働関係法の保護を受けられません。具体的には、配達員たちは労災や雇用保険の対象になりません。

また配達員のなかには「ウーバージャパンは、事故に遭った配達員に補償してくれない」という不満があります。2019年からは、配達中にケガをしたら、見舞金が最大25万円支給されるようになりましたが、それでも「大きな事故で入院することになったら、25万円ではまかなえない」と懸念する声があります(*5)。

社会的制裁を受けることになる

このウーバーイーツ問題は、多くのマスコミが取り上げました。いわゆる「裁判沙汰」になっているわけではないので、この問題に「白黒」ついたわけではありません。

しかしウーバーイーツへの世間のイメージは確実に低下してしまいました。

働く人への対応に疑念を抱かれると、「法律的に問題がある」と認定されなくても、社会的な制裁を受けることがあります。

ハイブリッド型雇用は解決策になるのか

「雇用か業務委託か」問題の解決策として期待できるのが、経済同友会などが提唱しているハイブリッド型雇用です(*7)。

経済同友会は、1)裁量労働制の拡大、2)解雇問題を解決するシステムの導入、3)同一労働同一賃金の実現を求めています。この3点はいずれも、優秀な働き手を手厚く待遇して、企業や売上高への貢献度が低い労働者に厳しく対応する内容といえます。

しかし現在の労働関係法は、この3点を制限する内容になっています。

ハイブリッド型雇用とは、企業がメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の2つを用意して、労働者がいずれかを選ぶ方法です。

メンバーシップ型雇用とは、職務、労働時間、勤務地を限定しない働かせ方・働き方です。職務を限定せず、会社に合う「」を採用するやり方で、日本型雇用とも呼ばれます。新卒採用をイメージするとわかりやすいでしょう。

ジョブ型雇用は、職務、労働時間、勤務地を限定する働かせ方・働き方です。職務を限定し、その「職務」を行う人を採用するやり方で、欧米型雇用とも呼ばれます。

現行はメンバーシップ型雇用が多いので、ジョブ型雇用を拡大することが、ハイブリッド型雇用を推進することになります。

なぜ、ジョブ型雇用を拡大すると(つまり、ハイブリッド型雇用に転換すると)、働かせ方・働き方問題の解決につながるのでしょうか。

まず労働者は、メンバーシップ型雇用かジョブ型雇用を選ぶことができます。自分のライフスタイルに合わせて働き方を変えることができるので、満足度は高くなります。

企業側は、メンバーシップ型雇用の給与とジョブ型雇用の給与に差をつけることで、人材コストを適正化させることができます。

雇用する形態でも人材コストが適正化できれば、実態は雇用状態なのに業務委託を続ける必要がなくなるでしょう。

まとめ~「創業間もないから」では許されない

起業家のなかには、本業のビジネスでは優れたパフォーマンスを発揮していても、人事や労務などの業務を苦手にする人もいます。

世の中がこれだけ企業のコンプライアンスに厳しい目を持つようになると、創業したてのスタートアップ(企業)やベンチャー企業であっても「人事や労務での失敗」は許されません。

そこで起業家は、「雇用か業務委託か」の選択を慎重に行ない、自社の利益を追求しながらも、働いてくれる人たちを正しく遇していく必要があります。

*1:ヤマハ | 事業内容の紹介 - 株式会社ヤマハミュージックジャパンについて

*2:ヤマハ英語教室の女性講師が労組結成 待遇改善求める:朝日新聞デジタル

*3:ヤマハ英語講師ユニオン

*4:Uber Japan株式会社 « Morning Pitch

*5:ウーバーイーツで発生するトラブル、クレーム、使い捨て…日本社会で増える自己責任の「働き方」問題 - wezzy|ウェジー

*6:ウーバーイーツ、配達員から不満 労働組合の結成準備:朝日新聞デジタル

*7:持続的成長に資する労働市場改革 - 公益社団法人 経済同友会


○「雇用とは、業務委託とは」シリーズ

この記事を担当したライター

classwork編集部

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