「法定福利費」とは何か? 2020年4月の社会保険料の変更点
給与明細を見た社員から、4月の社会保険料が増えている、と言われました。何か変わったのでしょうか?
従業員の方は40歳以上の方でしょうか?
2020年3月から、40歳以上の方が納めなければならない介護保険料が上がりました。
また、協会けんぽの場合、都道府県によっては健康保険料が上がっているところもあります。そのため、4月に支払われる給与から天引きされる保険料額が変わっています。
上がるのは、社員が負担する部分だけではありません。
会社が負担する部分も同じように変わるので、4月から法定福利費が増加して、会社の経費が増えていると思います。
4月からは、65歳以上の労働者に対する雇用保険料の徴収も始まります。
今までは免除されていた部分なので、ここについても労働者、会社ともに負担額が増えることになります。
社員を雇うと、給料以外にも経費がかかるんでしたっけ?
会社の経費が増えるってことは損益計算書に影響しますよね。
そうですね。社員を雇うと、会社は社会保険料を負担します。これを法定福利費といいます。
2020年の社会保険の料率と、それが会社の利益にどのようにどのような影響を与えるのか、ご説明します。
2020年の社会保険料率は?
毎年3月に健康保険料や介護保険料の料率が見直されます。東京都を例にとると、2020年3月分から保険料率が変わっています。健康保険料と介護保険料は、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金とあわせて翌月に納付しますので、4月納付分から料率が変更になります。
2020年4月に納付する社会保険料の料率は次のようになります。

健康保険料については、従業員の居住地ではなく、適用事業所の所在地の都道府県の料率が適用されます。お手元の健康保険証の下のほうに「保険者名称」があり、「○○支部」と記載されていますので、その都道府県の料率となります。
各都道府県の健康保険料率はこちらのサイトの「令和2年度の協会けんぽの保険料率」で確認できます。
また、労働保険の料率は業種別に決まっており、こちらのサイトの「労災保険料率の一覧」で確認できます。
ただし、メリット制もありますので、5月に労働局から送られてくる「労災保険率決定通知書」記載のメリット率を反映した改定労働保険率を確認してください。
メリット制は、事業場で実際に発生した労働災害に応じて、労働保険の保険料率を増減させる制度です。増減幅は40%の範囲内です。労災発生率が低く、保険を利用しない会社は保険料率が下がるという仕組みです。中小企業については45%まで増減範囲が拡大されます。
法定福利費ってなに?
会社は従業員に支払う賃金にかかる社会保険料を負担します。これを「法定福利費」といいます。負担割合は保険の種類により異なっており、会社だけが負担する保険料もあります。
下の図で従業員負担「なし」と記載している「子ども・子育て拠出金(旧児童手当) 」と」「労働保険料」は、全額を会社が負担します。
ここにあげた保険は国の制度による保険であり、任意加入ではなく強制加入です。そのため、要件を満たしている場合に、会社の判断で加入しないという選択はできませんので覚えておきましょう。

健康保険料率や介護保険料率の変化が法定福利費に与える影響は?
上記で東京都の小売業の保険料を例にとりましたが、東京都は2020年3月(4月納付分)から健康保険料率が9.90%→9.87%に下がっています。逆に介護保険料率は1.73%→1.79%にあがりました。
2020年3月(4月納付分)の厚生年金・雇用保険・労働保険の料率は変わっていませんので、健康保険と介護保険の保険料率の変更によって、会社が負担する保険料がどれくらい変わるのか、実際に計算してみましょう。
介護保険料負担が発生するのは40歳以上の従業員なので、次のような例で考えてみます。
【月額賃金300,000円で45歳の社員Aさんの場合】
標準報酬月額:300,000円なので、
2019年2月(3月納付分):300,000×(健康保険料率:4.950%+介護保険料率0.865%)=17,445円
2020年3月(4月納付分):300,000×(健康保険料率:4.935%+介護保険料率0.895%)=17,490円
差額は45円です。つまり、2020年3月(4月納付分)から、月額賃金300,000円で45歳の社員Aさんにかかる法定福利費は45円増えている、ということがわかります。
2020年4月から65歳以上の雇用保険の免除がなくなりました!
2020年4月から雇用保険にも大きな動きがあり、今まで免除されていた高年齢労働者(毎年4月1日時点で64歳以上である労働者)の雇用保険料を徴収することになりました。
【月額賃金300,000円で66歳の社員Bさんの場合】
300,000×(雇用保険料率0.600%)=1,800円
会社は2020年4月給与から毎月1,800円を負担することになります。年間では21,600円、法定福利費が増加します。(なお、本人負担額は0.300%のため、本人の給与額から毎月900円が天引きされることになります。)
※雇用保険料は毎月の給与額に応じて変動しますが、ここではわかりやすいように金額が変わらないものとして計算しています。
継続事業の労働保険の年度更新は、6月1日から7月10日に申告します。通常であれば確定保険料と概算保険料の基礎となる賃金と同額で計算しますが、今年度の申告に限っては、概算保険料を算出する基礎となる賃金に高年齢労働者の賃金を含めて算出することになりますので注意が必要です。
参考:厚生労働省「労働保険について」
年度更新についてはこちらの記事も参考にしてください。
✅【6月に対応必須】年度更新と算定基礎届ってなに?必要な書類を準備しましょう
✅年度更新・算定基礎はじめの一歩用語集:関連用語を最短でチェック!
法定福利費は会社の利益にどう影響する?
従業員を雇用すると人件費だけでなく、賃金にかかる社会保険料を会社が負担するという説明をしてきましたが、法定福利費の増加は、会社の利益にどのように影響するのでしょうか。
法定福利費は人件費とともに費用となります。会社の決算書である損益計算書(P/L)の費用部分に含まれます。会社の利益は下の図のような仕組みになっています。

実際の損益計算書では、法定福利費は販売費および一般管理費に分類されます。下のサンプルの赤色で囲った部分です。

サンプル様式引用元:会計学を学ぼう!損益計算書のサンプル
まとめ
人を雇用すると給与以外に法定福利費も必要となります。法定福利費は社会保険の会社負担分として、削ることができません。また、継続的に発生する経費として、会社の利益にどのように影響するか、押さえておきましょう。
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記事監修
【監修者】社会保険労務士 金山杏佑子
classwork編集長。社会保険労務士事務所ヨルベ 代表社会保険労務士。スタートアップの労務管理に注力。note