雇用調整助成金の概要まとめ
はじめに
今回は雇用調整助成金について概要をまとめます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴って影響を受ける事業主が増えている中で、4月1日〜6月30日については緊急対応期間として、雇用調整助成金の特例措置を実施することになりました。解雇を行わない中小企業に対して最大9割の助成率を適用することで、関心を集めているところです。しかし、そもそもどのような助成金なのか?仕組みを始め、多くの理解し難い部分があります。そこで、可能な範囲でまとめました。
そもそも雇用調整助成金とはどういうものなのか
助成金とはどこから、財源は何をもとに支払われるのですか?
おおまかに申し上げますと、助成金は、国から支払われるもので、財源は全国の雇用保険に加入している会社から集めたものが財源となっています。
そもそも雇用調整助成金とはどういうものか?経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者を解雇するのではなくて、休業や、教育訓練の受講、出向させるなど、雇用関係を維持する=「雇用の維持」を図るために取り組みを行った場合を指します。そして、その取り組みに要した費用(具体的には休業手当など)を助成する制度です。
ここでまずポイントとなるのが、雇用の維持を図るための休業手当等を支払うのにかかった費用に対して助成率が適用される。ということです。「具体的にどういうことなのか?」最も多く質問を受ける論点であり、後述します。
例えば月給20万円の労働者に対し、最大で9割の助成である為、18万円の助成がされるか?というと、決してそういう計算ではありません。
あくまでも「休業手当など」に対する助成率です。計算式は後述しますが、個人に現在支払われている給料額の9割という考え方ではない点にご注意下さい。その点を前提として、雇用の維持を図る(事業主の)取り組みに対する助成であるということを頭に入れておくと理解がスムーズになります。
休業手当とは
ここで休業手当について確認しましょう。労働基準法上、労働者を会社の都合で休業させる場合には、「平均賃金の6割以上」を支払わなければならないとの「最低基準」が設けられています。
そして、休業とは何を指すか?というと、労働日(※)に、労働者に働く意思と働く能力がある状態にも関わらず、会社の都合で「休んでください」と指示することです。
そうした場合にはいくらノーワークノーペイの原則があるとはいえ、会社の都合である為、平均賃金の6割以上(※)は払って下さい。とのルールになっています。この6割は最低基準なので、6割であったり、あるいは10割であったり、その間であれば会社が決めて(又は労使間で話し合い)良いことになります。
※(補足)上記のように、休業手当は労働日を対象としているので、月給制の場合、現在の給与の6割、というイメージを持つと誤ります。実際の計算方法とは異なりますが、誤解を恐れずに単純化すると、6/10×5/7≒4/10、4割程度になるというイメージです。)
会社の都合で休ませることに関して、事業主の都合とは、いわゆる一般的にイメージする悪意を持って休ませるなどではなく、広く捉えられています。親会社の工場が操業停止した為、子会社についても営業をストップせざるを得なくなって従業員を休ませる。というような場合であっても事業主の都合とされています。
今回についても、事業活動を縮小せざるを得なくなって従業員を休ませる場合は休業に当たります。
※(補足)事業主の都合という部分については、「法律上の根拠があるかどうか」という部分も関わってきます。例えば、「新型コロナウイルス感染症」に罹患した従業員を休業させる場合、感染症法という法律の根拠に基づいて休ませることになるため、休業手当を支払う必要はありません。(そもそも、罹患した状態で働く意思と能力がある、という状況は少ないかもしれませんが) 一方、「季節性インフルエンザ」の場合、罹患した従業員を休業させる(出勤停止させる)法律上の根拠はないため、従業員が出勤しようとした場合に休ませようとすると、休業手当の支払いが必要。ということになります。この点についてはhttps://note.com/sr__yorube/n/n28c9d10b65b1で説明しています。
また、今後、もし緊急事態宣言が発令され、会社が営業停止の指示を受けるような事態が発生したとすれば、それは「法律上の根拠」に当たる可能性があります。
休業手当を払わないで訴えられた場合は?
裁判所で休業手当の支払い命令が下された場合、請求金額と同一額の「付加金」も支払わなければなりません。(労基法114条)しかし、支払い命令が下される前に支払っている場合は、付加金の支払い命令が下されることはありません。
雇用調整助成金の要件の緩和
今回、4月1日から最大9割助成、という形で、新しくできた助成金のように見えますが、本来、雇用調整助成金は、年間を通じて整備されている制度です。
リーマンショック時にも特例として要件の緩和措置が取られていましたが、今回も緩和措置が取られていることになります。
実際には、1月の半ば、徐々に影響が出始めていた頃から新型コロナウイルス感染症にかかる要件が緩和されており、最初は中国関連の売上等が10%以上ある事業主に限って要件が緩和されていました。しかし、その後、中国関連要件が撤廃されて全業種に拡大され、更に今回要件が緩和されるということになります。「緩和措置の更なる緩和」とのイメージで捉えるとわかりやすいと言えるでしょう。
(図の一番左が原則、左から2番目が1月以降の緩和措置、3番目が4月からの緊急対応期間です。一番右側はリーマンショック時の措置です。)

雇用調整助成金の要件としては大きく2つあります。
1つは生産指標要件。
生産量や売上高が下がっているかどうか?原則は、3ヶ月単位(平均)でみて10%低下したこと。比較するのは前年同期比です。1月以降の特例においては、1ヶ月単位でみて10%以上低下。へと緩和されました。そして、4月1日からの緊急対応期間については「1ヶ月単位で5%以上低下」したことへと更に緩和が拡充されました。
リーマンショック時には、この部分は3ヶ月単位で見て5%であったっことから、当時と比較しても今回の要件緩和が大きいものだと言えます。

もう1つは計画届の提出時期。
雇用調整助成金は原則として、休業を実施する前に労働者との間で休業の内容を協議して計画届を作成し、事前に届け出ます。その上で休業を実施し、その計画と実績を元にして助成金を申請する流れです。
これが、1月24日以降に実施した休業については、計画届を事後的に提出することが認められています。よって、1月24日以降に実施した休業については、今まで計画届を作っていなかったとしても、事後的に作成して申請することで、助成金の対象となります。これは4月1日からの緊急対応期間についても同様です。

その他には、原則は、6ヶ月以上の雇用保険の被保険者期間を有している従業員が助成金の対象ですが、1月以降の特例措置においてはその被保険者期間要件が撤廃されています。例えば雇用されてから3ヶ月の方を休業させた分についても、今回の助成金の対象となります。これも4月1日からの緊急対応期間についても同様です。
また、助成率ですが、原則は中小企業は2/3、大企業は1/2です。1月以降の期間についても助成率は据え置きでした。よって、3月31日までのところについては、支給要件を緩和していたが、助成率は原則どおりでした。

しかし、4月1日からの緊急対応期間については、「助成率を中小企業は4/5、大企業は2/3に引き上げる」こと。更に、「解雇等を行わない中小企業については9/10、大企業は3/4」としています。
この更なる緩和措置については、4月2日現在詳細は出ていません。これは、4月1日からの緊急対応期間との扱いは、影響拡大に伴って今後の対応を迫られている事業主の方も多い為、安心して「解雇ではなく休業」の方向で、雇用の維持を選んでくださいとの趣旨で、(事前のアナウンスという形で)お知らせをしたとのことです。そのため、詳細については今後発表される予定です。よって、例えば9/10にあたる「解雇等を行わない場合」について、対象期間はいつからいつの解雇を指すのか、などといったことは、現時点では発表待ちです。

しかし、強調しているように、「雇用調整助成金」は以前かから整備されている助成金です。要件緩和に伴って今回の「新型コロナウイルス感染症にかかるものについてはこちらを使用」という様式(書類)はあるものの、原則は同じです。
【4/10追記】要件緩和の詳細が出ました。
雇用調整助成金雇用調整助成金について紹介しています。www.mhlw.go.jp
申請書類のダウンロードはこちらから。
雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウィルス感染症対策特例措置用)www.mhlw.go.jp
「9割」などの助成率は何に対するものなのか?
また、「9割」というところで押さえておいた方がよい論点が、助成額の算出方法、助成額を算出する際の流れです。何に対しての9割が保障されるのか、という論点です。
申請書類の一つに助成額算定書という、上から順に埋めていくと支給を受けようとする助成額が算出できます。というものがあります。流れとしてはまず、
(1)事業場における平均賃金額を出します。平均賃金額の算出方方としては、前年度の雇用保険の算定基礎となる賃金総額(毎年労働保険料の申告時に提出する確定保険料申告書に記載している金額)を使用します。その賃金総額を、[前年度の労働者数の平均×年間所定労働日数]で除して、1日あたりの平均賃金額を算出します。
(2)次に、基準賃金額を出します。平均賃金額に対して事業場で決められている休業手当の支払率を乗じて、基準賃金額を算出します。休業手当の支払率は事業場の取り決めに応じて変わるので、この%の部分には60〜100の数字が入ります。
(3)その基準賃金額に対して、助成率を乗じます(1人日あたり助成額単価)。中小企業であれば2/3、さらに今回要件に該当すれば4/5、など。この基準賃金額に助成率を乗じたものに対して、上限があります。具体的には、8,330円となっています。これは基本手当日額の上限額を元にした数字ですが、この8,330円を超えた場合は8,330円として計算します。

それに対して休業した延べ日数(休業実績届を元に、延べ日数でいうと何日分休業させたことになるのかを計算する)をかけ合わせて、助成額を算出していくことになります。
※(補足)原則の要件においては、残業した分については控除が必要です(残業相殺)。これは1月以降の緩和措置においても同様ですが、4月以降については残業相殺が停止されます。ここについても詳細待ちです。(※4/10 確認済)また、口頭説明のため、計算式については、特に網羅できていない点もあります。実際の金額の算出にあたっては、ガイドブックP43の記入例などを参考にして、算定書を埋めていってください。
【4/10追記】雇用保険被保険者以外の方については、計算式が異なります。支払った休業手当の額×助成率となります。
特例が続いているようだけど、今後もこのような取り扱いはあるのですか?
コロナ危機は、2008年のリーマンショックの時とは異なり、敵は「目に見えないウイルス」です。よって、医療機関を始め、世間が危機的状況の中で「特例は終了です」とは言いづらいと考えます。むしろ、感染者数も増えており、企業体力も落ちてきていますので、今後も新たな特例が出される可能性はありますので、注視しておくべきでしょう。
(5/3現在)
特に伝えたかったこと
最も強調したいことは、「その人の給料に対応して何割という計算式ではない」という部分です。
少なくとも後から助成がなされるとは言っても、会社側の持ち出しは絶対に生じてしまいます。9割は補填されるから大丈夫、という認識でいると、計画に狂いが出てくることもあろうかと思いますので、念の為、触れておきました。書式や要件はわかりにくいと思いますが、『雇用調整助成金ガイドブック』の黄緑色の表示の冊子がとても分りやすいです。厚生労働省のHPからダウンロード可能です。実際の書式の記入例も載っており、より申請のイメージもわきやすいので、是非ご参考下さい。
尚、本稿の内容は2020年4月13日現在の情報を前提としています。

【まとめ】厚生労働省HPのここを見ればよい
日々情報更新されていますが、プレスリリースであったり、それぞれどこを参照すればよいか迷いやすいかと思いますので、主要なページをまとめておきます。
○雇用調整助成金にかかる最新情報を知りたい(※問い合わせ先もここに載っています)
雇用調整助成金雇用調整助成金について紹介しています。www.mhlw.go.jp
○4月1日からの追加特例措置の内容を知りたい(3月28日プレスリリース)
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大についてwww.mhlw.go.jp
(4月10日プレスリリース)
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置を追加実施するとともに、申請書類の大幅な簡素化を行いますwww.mhlw.go.jp
○申請書類をダウンロードしたい
雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウィルス感染症対策特例措置用)www.mhlw.go.jp
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